東シナ海での産卵生態と卵・仔魚の輸送

資源が大きいときには、産卵場は薩南海域まで大きく拡大しますが、資源が小さいときには九州西や対馬海峡に縮小します。なお、薩南海域に分布するマイワシは太平洋からも日本海からも来遊すると考えられています。

九州西(長崎県沖合)では、1980年代には4月が主産卵期であったのに対し、1990年代には3月が主産卵期となりました。これは水温の上昇傾向により産卵が早まった可能性が示唆されています。そこで、2〜5月に九州西岸の広い海域で漂流はがきを投入して、その輸送される海域をみてみると、4月には日本海に輸送される場合が多く、3月には九州西の沿岸域に輸送される場合が多くなります。また薩南海域で投入された漂流はがきは、すべて太平洋に輸送されましたので、主に太平洋側へ卵・仔魚が輸送されたと考えられ、日本海側のマイワシ資源への加入は少ないと思われます。

マイワシの資源量の多寡や海洋環境の変化が卵や仔魚の輸送される海域を変化させていることが推察されました。対馬暖流域では、生活史初期の段階で九州西から日本海に広く分布することがマイワシの資源の増大に働くと考えられます。1990年代のように、一部の沿岸域に仔魚や稚魚が滞留するような条件のときには資源の増大の可能性は少ないと考えられます。