近年、日本周辺での漁業の状況は極めて厳しいものになっている。1980年代には1千万トンを超えていた漁獲量は、21世紀の現在では相当減少してしまっている。漁業者の数が減ったことも一因であるが、いわし類、特にマイワシの漁獲量の減少の要因が大きい。日本周辺のマイワシの漁獲量の歴史を紐解くと、1980年代のピークの前には1930年代にピークがあった。それ以前にもさまざまな文献から、マイワシは豊凶を繰り返してきたことがうかがえる。
なぜ、マイワシをはじめとするいわし類は豊凶を繰り返すのかという問題に関して、これまで長期間にわたり、さまざまな調査や研究が継続されてきた。また、近年では太平洋側に分布するマイワシを主対象として、多様な機関が参加して、マイワシの資源変動の謎の解明のために集中的に研究がなされている。その結果は、多くの学術雑誌や一般叢書およびパンフレットなどによって紹介されてきている。一方、日本海側に分布するマイワシの研究もまた地道にデータを積み重ねてきた。このパンフレットでは、水産総合研究センターをはじめとする水産試験研究機関や、気象庁海洋気象台の公開されたデータをもとに、いわし類(マイワシ・カタクチイワシ・ウルメイワシ)の資源変動の概略を示し、海洋環境の変動とあわせて説明し、なるべく平易に現象が理解できるようにとりまとめた。
しかしながら、すべての資源変動の要因が理解され、今後どのように資源が推移していくのかということについて必ずしも明確に答えが得られたわけではない。今回資料をとりまとめて、今後の調査のありかたを考えるための知見としていくことが重要と考えている。また、今後とも地道に調査を積み重ね、将来どのようにいわし類が変動していくのかを、なるべく正確に、迅速に理解できるようにすることにより、我が国周辺の漁業活動を支えていけたら、水産科学にとってこれ以上の幸せなことはないと考える。