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ABC算定のための資源管理基準と漁獲制御ルール(平成13年度)
1.背 景

近年の我が国経済社会及び水産を巡る情勢の変化を踏まえ、水産に関する施策の基本理念及び施策の基本的な方向を明らかにした「水産基本法」が第151回通常国会で成立した。「水産基本法」において、排他的経済水域等における資源の保存・管理に関する基本的な施策については、資源を最大持続生産量(MSY)を実現できる水準に維持・回復するため漁獲量、漁獲努力量の管理等の施策及び水産資源の適切な保存・管理を図るための調査・研究の推進が謳われている。

「水産基本法」の成立とともに、「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」の一部改正も行われ、従来の漁獲可能量(TAC)制度に加え、新たに漁業種類、海域、漁期別に漁獲努力可能量(TAE)を定める管理制度が導入されることとなり、漁業の現状や資源特性などに応じた資源管理措置を講じていくこととなった。

さらに、我が国排他的経済水域等における水産資源のうち資源状態が悪化しているものについて、国、関係都道府県及び関係漁業者等の協議により、漁獲努力量の削減を含む具体的措置により速やかに資源の回復を図ろうとする資源回復計画が本年度後半より策定・実施されることとなっている。

平成12年度に、「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」の規定を踏まえ、得られる最良の科学的情報に基づきMSY水準への維持・回復を目指す漁獲量の目安を提供するため、生物学的許容漁獲量(ABC)算定の資源管理基準と漁獲制御ルールを定めたところである。平成13年度のABC算定に当たっては、平成12年度に定めた資源管理基準と漁獲制御ルールの基本的な考え方を継続する一方、資源回復を図る資源水準(漁獲係数Fの引き下げを開始する資源水準)については可能な限り個々の資源状況等を踏まえるとの考えなどからルールの一部見直しを行った。

2.基本的考え方
1)ABCの算定目標:

基本的に加入乱獲の回避を念頭に置きつつ、MSYを実現できる水準に資源を維持・回復させることを目的として、生物学的管理目標となる漁獲量(生物学的許容漁獲量:ABC)を算定するものとする。

MSYは「その資源にとっての現状の生物的、非生物的環境条件のもとで持続的に達成できる最大(高水準)の漁獲量」と解釈する。

資源解析に当たっては、利用可能な情報に基づき国際的にも広く合意されているモデル等を適用するよう努める。

2)漁獲方策と資源管理基準:

資源管理目標を達成するため、漁獲係数Fを適正な水準に設定する漁獲方策(漁獲率一定方策)を基本とし、ABC算定における標準的な管理基準と漁獲制御ルールを示す。資源管理基準の設定に当たってはできるだけ年齢構成を考慮した方法(例、Sissenwine and Shepherd,1987)や再生産情報(再生産関係、産卵資源量)に基づいて行うこととし、Fmsy(あるいは代替値としてのFmed、Fx%、F0.1など国際的にも広く用いられている資源管理基準)を適用するものとする。しかし、上記の方法を適用するに十分な情報が得られていない場合やシミュレーションが適切な場合は、担当者(機関)の専門家としての判断により上記以外の管理基準を使用することができる。

なお、産卵群を対象に漁業が行われ再生産関係が明瞭な場合の産卵資源量一定方策、利用可能な情報が漁獲量や資源の相対値に限られる場合のフィードバック管理方策など、資源の特性や利用可能な情報の程度によってはF以外の管理基準を設定して差し支えない。

3)不確実性への配慮:

資源評価はある程度の不確かさを持つ。したがって、乱獲リスクを高い確率で避けるため、算定されるABC(ABClimit)とともに予防的措置として安全率を見込んだABCの目標値(ABCtarget)を合わせて提示するものとする。

見込むべき安全率の程度は、一般にはFmsyの75%程度の漁獲係数でMSYの95%前後、Bmsyの130%前後が達成されることが知られている(Restrepo et al., 1998)ため、Fに関する標準的な安全率を0.8とするが、資源の状況や特性などを踏まえて専門家が判断できるものとする。

4)資源回復への配慮:

減少した資源の確実な回復を図るため、資源量がある一定水準(目標水準)以下にある場合にはその程度に応じてFを引き下げることとする。

現在の資源量(B)が目標水準(Blimit)以下である場合には、(1)B/Blimitの比率または(2)目標水準にまで回復させるための期間を設定することで、資源回復に至るFを定めるものとする。

また、シミュレーションなどによる将来予測についても検討するものとする。

5)環境変動により長期的かつ大規模な資源変動を示す資源への対応:

再生産関係が長期的な環境変動や魚種交替現象に対応して異なるフェーズの間で変動していると認められる資源については、現在のフェーズの資源状態や生物学的特性に基づき管理基準を設定しABCを算定することとする。

6)栽培対象種への対応:

当面は可能な方法で放流魚と天然魚を含めた資源評価に努め、利用可能な情報の程度に応じて下記3に示す資源管理基準と漁獲制御ルールを準用してABC(limit及びtarget)を算出することとする。

3.管理基準値と漁獲制御ルール

利用できる情報に基づくABCを算定するための標準的な資源管理基準と漁獲制御ルールの仕様を示す。

管理指標値:漁獲係数F
漁獲制御ルール1

1−1)利用できる情報:資源量Bあるいは親魚量SSBと再生産関係(SSB-Rのプロット)

(1)資源状態:B≧Blimit

Flimit=Fmsy
Ftarget=Flimit×α

(2)資源状態:B<Blimit

Flimit=Frec
Ftarget=Flimit×α

*Fmsyは再生産式を利用したMSYを達成する漁獲係数であるが、代替値としてFmedやシミュレーションにより管理目標を達成するFも使用可能とする。
*BlimitはFをFmsyから減少させ始める閾値(資源量あるいは親魚量)で(図1)、@再生産関係において経験的に加入量Rが激減するSSBまたはAR50%(再生産式において最大のRの50%が得られるSSB)またはBSb(再生産関係のプロットにおけるRPShigh(RPSの高い方からの10%点に相当)を示す直線においてRhigh(Rの高い方からの10%点に相当)を実現するSSB;図2)などが考えられる。
*Frecは@Fmsy(または代替値)をB/Blimitの比率で引き下げた漁獲係数またはABmsyへの回復に要する年数から求められる漁獲係数で、回復に要する年数は、個々の資源の状況に応じて設定する。
*再生産関係が長期的な環境変動(例:平均水温の20〜30年での準周期的な変動)や魚種交替現象に対応して異なるフェーズの間で変動していると認められる資源については、現在のフェーズの資源状態や生物学的特性に基づきBlimitを設定する。
*αは安全率で資源の状況や特性などに応じ決定できる(デフォルトは0.8)。 


図1.漁獲制御の概念図。B<Blimitの場合は、資源回復の目標と方策に応じてFを制御する(矢印)。


図2.Sbの求め方の例

1−2)利用できる情報:プロダクションモデルによるBmsyとFmsy

(1)資源状態:B≧Blimit

Flimit=Fmsy
Ftarget=Flimit×α

(2)資源状態:B < Blimit

Flimit=Fmsy×B/Blimit
Ftarget=Flimit×α

*Blimitが漁獲制御ルール1-1)の方法により設定できない場合はBmsyの50%とする。
*αは安全率で資源の状況や特性などに応じ決定できる(デフォルトは0.8)。

1−3)利用できる情報:資源量Bと生物特性値(再生産関係は不明確またはデータ不十分)

(1)資源状態:高位で増加または横ばいにあるとき

Flimit=基準値(F30%、F0.1、Fmax、M等)か現状のF
Ftarget=Flimit×α

(2)資源状態:高位・減少か中位で横ばい、増加にあるとき、またはシミュレーションにより資源水準が維持できると考えられた場合

Flimit=基準値(F30%、F0.1、M等)か現状のF×β1
Ftarget=Flimit×α

(3)資源状態:中位・減少か低位にあるとき、またはシミュレーションにより資源水準が低下する可能性が高いと考えられた場合

Flimit=基準値(F30%、F0.1、M等)か現状のFの小さい方×β2
Ftarget=Flimit×α

*αは安全率で資源の状況や特性などに応じ決定できる(デフォルトは0.8)。
*β1は1以下の定数。β2は1未満の定数。
 いずれも資源の回復能力の程度などにより決定する。
*SPR水準の30%、YPR水準のF0.1はデフォルトであり、資源の特性・状態や情報の多寡に応じて適宜(例:情報量少ない場合は高い%等)設定する。Mは自然死亡係数。

管理基準1-3)の適用にあたり、
@できるだけ1-3)のルールのみによらず、1-1)のルールにより、目標とする資源水準を設定する。
AF0.1はFmsyの代用値として使用されるが、加入乱獲を引き起こすこともあることに留意する。
BFの基準値としてのF=Mは、比較的寿命が長くMが小さい底魚類等に適用する。
C(2)の資源状態において、基準値より高い現実のFを選択する場合には、その理由を明らかにする。

管理指標値:漁獲量
漁獲制御ルール2

2−1)利用できる情報:漁獲量と資源量水準P
ABClimit=Ct×γ
ABCtarget=ABClimit×α

*Ctはt年の漁獲量(近年の平均漁獲量Cavgとしても可)。
*γは係数で資源量の指標などから専門家が判断して決定する。例えば底魚等のように相対的に再生産関係が安定しており寿命の長い魚種などはTanaka (1980)によるγ=1+ h×(Pt - Pu)/Pu + g×(Pt - Pt-1)/Pt-1などの方法が考えられる。Puは目標とする資源量の指標値、Ptはt年の資源量の指標値、ここでt年は資源評価に用いる最近年。
*hとgは定数で資源の特性や現状などにより定める(h=0.3、g=1等)。
*αは安全率で資源量の指標の精度に応じ決定する(α≦1)。

2−2)利用できる情報:漁獲量と資源状態

(1)資源状態:高位で増加または横ばいにあるとき

ABClimit=平均漁獲量
ABCtarget=ABClimit×α

(2)資源状態:高位・減少か中位で横ばい、増加にあるとき

ABClimit=平均漁獲量×β1
ABCtarget=ABClimit×α

(3)資源状態:中位・減少か低位にある、または資源状態が不明のとき

ABClimit=平均漁獲量×β2
ABCtarget=ABClimit×α

*@平均漁獲量は、漁獲量のトレンドについて利用可能な年数を全て考慮した上で適切な期間とすること。A体長、分布や漁獲努力の変化など、漁獲量以外に何らかの情報が得られている場合はそれらも参照すること。
*αは安全率で資源の状況や特性などに応じ決定できる(デフォルトは0.8)。
*β1は1以下の定数。β2は1未満の定数。
いずれも資源の回復能力の程度などにより決定する。

記号説明:
ABClimit:ABCの上限値。
ABCtarget:ABCの目標値。
B:資源量(重量)。
Bmsy:MSY(長期的に持続可能な最大生産量)を達成する資源量。
Blimit:FをFmsyから減少させ始める閾値(資源量あるいは親魚量)。
Flimit:資源の乱獲を避けるためのFの上限値。
Fmed: 再生産関係のプロットの中央値に相当するF
Fmsy:MSYを達成するF。
Frec:@Fmsy(または代替値)をB/Blimitの比率で引き下げた漁獲係数またはABmsyへの回復に要する年数(個々の資源の状況に応じて設定)から求められる漁獲係数。
Ftarget:確実な資源の維持・回復を期待する場合の目標となるF。
Fx%:漁獲がない場合のx%に相当する平衡SSB/Rを達成するF。Fx%SPRのこと。
Fmax:YPR解析において、加入当たり生産量が最大となるF。
F0.1:YPR解析において、加入当たり生産量の増加率が開発初期(F=0→ΔF)の1/10となるF。
P:資源量水準。
R:加入量
SSB:親魚量
SPR:加入量あたり産卵量
PRS:産卵(資源)量あたり加入量
α:予防的措置のための係数。
β:資源回復のための係数。
γ:資源量の指標を考慮した係数。

4.参考文献・資料
1)管理基準・漁獲制御ルール

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