令和2年度資源評価報告書（ダイジェスト版）
| 標準和名 | イカナゴ |  |
| 学名 | Ammodytes japonicus | |
| 系群名 | 瀬戸内海東部系群 | |
| 担当水研 | 水産資源研究所 |
生物学的特性
| 寿命： | 3歳～4歳 |
| 成熟開始年齢： | 1歳（100％） |
| 産卵期・産卵場： | 12月～翌年1月、播磨灘北東部と備讃瀬戸 |
| 食性： | 仔稚魚は小型のカイアシ類やその幼生、体長15mm以上の稚魚は毛顎類、枝角類、幼魚や成魚はカイアシ類、珪藻、カニ・エビ幼生、端脚類、尾虫類、イカナゴ仔稚魚 |
| 捕食者： | 仔稚魚は多様な浮魚類や毛顎類、幼魚や成魚はスズキ、サワラ、ヒラメ、ブリ等 |
漁業の特徴
本資源の漁獲はシンコ（0歳魚）とフルセ（1歳魚以上）を対象にしている。
和歌山県、徳島県、大阪府、兵庫県、岡山県では主に船びき網、香川県では主に込瀬網で漁獲される。
2018年までは兵庫県の漁獲が大半を占めていたが、2019年はシンコ漁獲量がほぼ半減した。
このため、香川県の漁獲が最も多くなった。
兵庫県のフルセ漁は1月末～2月上旬に始まり4月上旬頃まで、シンコ漁は2月末～3月上旬に始まり4月下旬頃まで行われる。
近年フルセ漁獲量が低迷し、その保護のため、2019年には操業の完全自粛により水揚げはされなかった。
大阪府ではシンコ漁のみ行われ、通常2月末～3月上旬に始まり1か月ほど続く。
兵庫県と大阪府は解禁日や1日の操業時間を共同で取り決めている。
漁獲の動向
漁獲量は1952年の6,105トンから1971年には6.4万トンに増加した。
その後2万トン～5万トンの水準で変動したが、1980年には過去最高の7.3万トンに達した。
しかし、1989年には2万トンまで減少し、1992年には4.6万トンに増加したものの、それ以降は減少傾向が続き、2009年には4,307トンとなった。
2011年には2.5万トンに増加したがその後再び減少傾向となり、2017年に過去最低の1,480トンとなった。
2019年は過去2番目に低い2,301トンであった。
資源評価法
従来適用してきたコホート解析の前進法において、今年度は1歳魚以上の操業が完全に自粛されたため1歳魚以上の漁獲量が0となり、コホートの追跡が困難となった。
このため、1989年以降の漁獲量と資源量指標値を用いてABC算定を行った。
資源量指標値は兵庫県の播磨灘と大阪湾における代表漁協（育波浦、淡路島岩屋）の0歳魚単位努力量当たり漁獲量（CPUE）の平均値を用いた。
ただし、0歳魚CPUEではコホート解析による親魚量（2017年度までの指標値：1989年以降の漁獲量から推定）が高位であった頃のデータが乏しいため、親魚量データで補正した。
資源状態
資源量指標値（両漁協の0歳魚CPUEの平均値）は、1989年の1,593（kg／統、以下略）から増減を繰り返し、2001年の3,544をピークに、2019年には過去最低の252となった。
以前のコホート解析の結果では親魚量が1989年に最大値を示したことから、1989年の親魚量（8.6万トン）／1992年の親魚量（5.7万トン）の比（1.52）を1992年の0歳魚CPUE（3,110）に乗じて0歳魚CPUEの最大値（4,718）と仮定した。
こうして求めた0歳魚CPUEの最大値と最小値の間を3等分し、資源水準を区分した。
資源水準の高位と中位の境界は3,229、中位と低位の境界は1,735となり、2019年（252）の資源水準は低位と判断した。
また、過去5年（2015年～2019年）の資源量指標値の推移から、資源動向は減少と判断した。
管理方策
資源量指標値の水準および動向に合わせた漁獲を行うことを管理目標とし、2021年ABCを算定した。
ただし、本系群の資源は過去に類を見ないほどに低下しており、昨年度までの算定式では、漁獲量、資源量指標値ともに減少しているにもかかわらずABCが約2倍に算定されるという不合理が生じたため、係数の一部を変更してABCの算定を行った。
資源管理のためには、解禁日を遅らせて1尾当たりの体重増加を待つこと、当歳魚の漁期の終了を早めて翌年の再生産の安定化をめざすこと、産卵量の増大が期待できるフルセの漁獲を控えること等が望ましい。
近年は価格高騰の影響から漁期が延長されることもあり、今後もこのような傾向が続けばさらなる資源状況の悪化を招くこととなり、禁漁も見据えた早急な資源保護施策の提言が必要である。
また、湾灘単位ではなく瀬戸内海東部海域全体としての資源保護および管理を推し進めるべきである。
| 管理基準 | Target／Limit | 2021年ABC （トン） |
漁獲割合 （％） |
F値 （現状のF値からの増減％） |
| 0.7・C2019・0.64 | Target | 828 | － | － |
| Limit | 1,035 | － | － |
- Limitは、管理基準の下で許容される最大レベルの漁獲量、Targetは、資源変動の可能性やデータ誤差に起因する評価の不確実性を考慮し、管理基準の下でより安定的な資源の増大または維持が期待される漁獲量
- ABC算定規則2-1)によって、ABCはABClimit＝δ1・Ct・γ1、ABCtarget＝ABClimit・αで計算した
- δ1には0.7（従来の算定式ではδ1に0.8を適用してきたが、本系群の資源は過去に類を見ないほどに低下しており、そのような資源においては乱獲回避率を重視する方策が重要と考えられる。このため、より乱獲回避率が上回る0.7とした。）、αは標準値0.8を用いた
- Ctは2019年の漁獲量を用いた
- γ1はγ1＝1＋k(b/I)で計算した。kは標準値の1.0、b(-204.72)とI(573)はそれぞれ資源量指標値の傾きと平均値（直近5年間（2015年～2019年））である。昨年度までの算定式では、漁獲量、資源量指標値ともに減少しているにもかかわらずABCが約2倍に算定されるという不合理が生じた。これは資源量指標値の減少傾向が従来の直近3年間では捉えられなかったことによる。このため、資源量指標値の適用範囲を直近5年間とした
資源評価のまとめ
- 資源水準は低位、動向は減少
- 資源量指標値は増減を繰り返し、2019年は252kg／統と過去最低
管理方策のまとめ
- 資源量指標値の水準および動向に合わせた漁獲を行うことを管理目標とした
- 解禁日を遅らせて1尾当たりの体重増加を待つ等、漁獲量安定化を図る
- 当歳魚の漁期の終了を早めることで、翌年の再生産の安定化が期待できる
- 産卵量確保のため、産卵量の増大が期待できるフルセの漁獲を控えることが望ましい
執筆者：高橋正知・河野悌昌
資源評価は毎年更新されます。